逃げ恥婚に学ぶ「結婚契約」に関する考察

 つい最近の話ですが、「逃げるは恥だが役に立つ」という漫画を題材としたドラマの二人の主人公が、結婚するというニュースが世間を騒がせました。この「逃げるは恥だが役に立つ」という言葉がハンガリーの諺ということは、既に有名な話です。この諺に心を揺さぶられた方々が、日本には数知れずいます。

 この諺は、「恥ずかしい逃げ方だったとしても生き抜くことが大切」等と翻訳されています。自分がおかれている環境に固執するのではなく、逃げることも選択肢として、自分が得意なことを発揮できる場所で活躍するべきというものです。

 そして、「逃げるは恥だが役に立つ」の話のなかで、「結婚契約」というキーワードとなる言葉が出てきます。実際には、「結婚契約」だけではなく「婚前契約」という言葉も有り、両者の違いが気になります。

 文言どおり、結婚前に締結する契約が「婚前契約で」あり、結婚後も含めて夫婦間で締結する契約が「結婚契約」として考えてみましょう。そうすると、「逃げるは恥だか役に立つ」のドラマの中に出てくるのは結婚前の契約なので「婚前契約」と考えられます。

 ただし、あくまでもドラマの中の契約なので、その内容について現実の法令に合わないかもしれません。その点については、割愛します。

 では、この「婚前契約」とは実際にどんなものなのでしょうか。また最後に、相続に如何なる影響を与えるかも、一言だけ書いてみたので順を追って見て行きましょう。

 民法の原則では、「婚姻期間中に夫婦間で取り交わした契約」は、いつでも、夫婦の一方から取り消すことが出来るとしています(民法754条)。そして、民法上は、「夫婦間の財産上の問題に関する取り決め」については、「結婚前」に行う「夫婦財産契約」という制度だけしか規定されていません(民法755条)。ということは、「婚前契約」の内容は、夫婦双方の合意によって成立する契約なので、どちらか一方からの申し出によって自由に取り消すことが出来ないのです。

 また、婚前契約の特徴として、「夫婦財産契約に関する規定を変更することは出来ない」という点が挙げられます(民法758条1項)。夫婦財産契約は内容を変更することが出来ないのですから、事前に内容を十分な確認してをしてから作成する必要が有ります。

 それでは、婚前契約書や結婚契約書にはどんなことを盛り込むのでしょうか。

 盛り込む内容は、基本的に自由です。ただし、盛り込むことが出来ない事柄は決まっています。まず、公序良俗に反する内容や強行法規に反する内容は盛り込めません。次に、婚前契約書で子供の親権について予め規定しても、その内容は家庭裁判所を拘束することはありません。なぜなら、家庭裁判所が離婚当時の事情を総合的に判断して、どちらに親権を認めるかを裁量によって決定するからです。また、夫婦の日常の家事に関する第三者に対する債務の連帯責任です。これも、婚前契約書の一部を構成する夫婦財産契約(民法756条)によっても外すことは出来ないとされています。
   
 このように、結婚契約書や婚前契約書自体は、双方の希望によって比較的自由に内容を取り決めることが可能です。ただし、全ての内容に法的に強制力が保証されるとは限らないので注意が必要です。たとえ公正証書で結婚契約書や婚前契約書を作成しても、定められる内容には一定の制限が有ることを忘れないでください。

 余談ですが、相手の相続について婚前契約書に盛り込でも法的効果は発生しません。例えば、夫の両親が死亡し、夫が財産を相続したとします。婚前契約書で夫の親の財産は夫と妻で半分に分けることと盛り込んでも法律上は認められないのです。なぜなら、この場合では法律上は妻には相続権が無いからです。

 このように、盛り込むことは自由ですが効果が得られない事柄も有ります。大事な結婚に関する取り決めなので、少しでも心配な場合は専門家に相談したうえで作成を依頼することが一番の近道でしょう。

 「逃げるは恥だか役に立つ」という諺が、結婚契約自体にどこまで影響するかは分かりません。諺の意味を間違った解釈をすることは良くありませんが、自分なりにポジティブに捉えることは良いかもしれませんね。

 これからの時代では、婚前契約をすることで夫婦間の想いを擦り合わせて結婚生活を豊かにすることも、一般的な夫婦の形になって行くかもしれませんね。

 それではまた次回まで。
                                  

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鈴木克尚

鈴木克尚

行政書士(出入国関係申請取次業務特定社員)、東京都行政書士会登録、登録番号:第11082416号、株式会社ルリアン所属

※記事は執筆時点の法令等に基づくため、法令の改正等があった場合、最新情報を反映していない場合がございます。法的手続等を行う際は、各専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。