所在不明株主に対するアプローチ方法

~所在不明株主に関する会社法の特例~

所在不明株主の存在は、会社の円滑な意思決定を行ううえで悩ましい課題です。株主である以上は、株主総会の招集通知や配当は行わなければなりません。また、M&Aをはじめとした事業承継の場面でも、通常は100%の株式が譲渡されることが条件となり、ハードルが高いといえます。

このような所在不明株主に対しては、会社法上、株主に対する通知が5年以上継続して到達せず、かつ所在不明株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しない場合、所定の手続を経ることにより、その株式を会社が買い取ることができます。

ここで、2021年8月に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(平成20年法律33号/経営承継円滑化法)の改正により、所在不明株主からの株式買取りまでに要する期間を短縮する特例が設けられ、「5年」の期間が「1年」に短縮されました。

所在不明株主の問題をクリアにする手法としては、会社法上、株式併合、取得条項付種類株式、特別支配株主による売渡請求等のスクイーズアウトがありますが、これらは株主総会の特別決議(3分の2以上の賛成)を要したり、会社主導による強権発動といった面もあったりする点で、活用場面が比較的限定されているといえます。

一方、所在不明株式の買取り制度は、期間制限こそ設けられているものの、期間が経過すれば、株主総会の決議を要さず着手できるという面があります。これまでは5年以上の期間を要することから、中長期的な視点で取り組む必要がありましたが、今後は、都道府県の認定を経れば、短期間で着手可能となります。

経営承継円滑化法に基づく認定の要件の一つとしては、代表者の年齢が60歳以上、健康状態が芳しくない、代表者以外の役員や幹部従業員の病気や事故、新型コロナウィルス感染症による売上の減少等のいずれかに当てはまることがあげられます。

認定にあたり、認定申請書のほかに、株主名簿や定款等の資料が必要です。所在不明株主の整理だけではなく、会社法務の資料を整備する機会にもなります。

事業承継を視野に入れている場合には、本制度の活用を検討してみてはいかがでしょうか。

◆参考URL

法務省『所在不明株主に関する会社法の特例』

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu/kaisha-hou_pamphlet.pdf

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司法書士 本橋 寛樹

司法書士法人F&Partners所属。司法書士、東京司法書士会登録、登録番号:第7888号

※記事は執筆時点の法令等に基づくため、法令の改正等があった場合、最新情報を反映していない場合がございます。法的手続等を行う際は、各専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。