「鎌倉殿の13人」に考える生前対策
※このコラムはフィクションです。
みなさんは「生前対策」という言葉を聞いたことがありますか? 「生前贈与」「家族信託」「遺言」「生命保険」「任意後見」「死後事務委任」などを指し、「相続」を死後にスタートさせることなく、生きている間に進めていこうというものです。このうち、「生命保険」については、福沢諭吉がその考え方を西洋から持ち込んだということが有名ですが、実は似たようなものは人間が穀物を栽培し始めたころからあったという説があります。食べ物が貯蓄できるようになったことで、コミュニティの中で少しずつ供託して保存し、有事の家族に分け与えたというものです。画家フランソワ・ミレーの作品で知られる「落穂拾い」も、一種の保険のような風習であったとされています。
同じように、他の生前対策についても、そういう言葉ではなかったとしても人類の歴史と深く根ざしているものがほとんどです。むしろ、現代のような生前対策無関心時代は過去にはなかったかもしれません。今回は、この中の「遺言」「家族信託」にスポットを当てたいと思います。
歴史が変わった?遺言状
放送中のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の中で、三浦義村(演・山本 耕史)が「(源)頼朝様の遺言」だとして自ら書いた書面を見せ、北条義時(演・小栗旬)に偽物だと指摘されると、「何枚でもあるぜ」と悪びれることなく“遺言状の束”を見せる場面がありました。三浦義村は鎌倉幕府の初代将軍・源頼朝(演・大泉洋)の孫にあたる公暁(幼名は「善哉」、演・寛一郎)の乳母夫であったことから、二代将軍・源頼家(演・金子大地)の後継者が公暁だとする遺言があれば都合が良かったのです。
実際、源頼朝あるいは頼家は、遺言書をしっかりと書いておくべきでした。なぜなら、その公暁が三代将軍・源実朝(演・柿澤勇人)を殺害し頼朝嫡流の将軍家が途絶えることになってしまうわけですから。義村の遺言状はどの歴史書にもないフィクションですが、脚本を担当した三谷幸喜さんなりの「遺言書の重要性」を示す場面だったのかもしれません。
ちなみに令和の時代に、遺言書作成を検討された方がいいケースは、以下のようなケースが該当します。自分の代で歴史を変えてしまわないように(もしくは変えるために)、遺言書で備えることを考えてみてはいかがでしょうか。
- 特定の相続人に財産を残したい
- 独身で子どもがいない
- 夫婦の間に子どもがいない
- 前妻との間に子どもがいる
- 相続で揉める可能性がある
- 相続人の中に認知症の人がいる
- お世話になった個人に寄付をしたい
- 応援している団体に寄付をしたい
鎌倉時代にもあった?「家族信託」
元気なうちに、自分の財産を「誰に」「どのように管理してもらうか」を予め決めて契約をしておくことを「家族信託」といいます。いろんな理由により、自分の財産の管理を信頼する人にお願いする訳ですが、現代では認知症対策などで利用されることが多くなっています。
さきの「鎌倉殿の13人」の中で、そろそろ初代執権の北条時政(演・坂東彌十郎)から義時に北条家の家督が譲られる(というよりも「奪われる」)場面が訪れようとしています。後の「得宗」の始まりとなる歴史的に重要な場面です。「奪われる」と書いたように、義時による時政の追放の意味が強かった家督相続ですが、これも立派な家族信託ということができます。晩年の時政は妻の牧の方(演・宮沢りえ)の意向や自らの権力欲により、「武士の鑑」と呼ばれた畠山重忠(演・中川 大志)を討つなど周囲から疑問を持たれる判断をすることが多くなってきました。義時が破滅を迎える前に家督相続を断行したことで、時政は討たれることなく、78歳まで生きることになります。現在でいうところの家族信託により、その後「北条得宗家」としての一族の繁栄に導いたと言えるかもしれません。
家族信託の場合、認知症対策と同時に、遺言書と同じ効果を持たせることもできますので、2つの対策を一度にすることも可能です。ほかにも、資産管理など手続きを専門家に依頼しておく「任意後見」や「財産管理」契約も有効な手段です。ご家族の状況によってどんな対策が最適かは変わりますので、専門家に相談してみるとよいでしょう。義時も鎌倉幕府のブレーン・大江広元(演・栗原英雄)あたりに相談(この二人の墓は鎌倉の高台のほぼ同じ場所にあり、生前の信頼関係が伺われる)したのかもしれませんね。
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