井戸とイドと「みんなの終活窓口」
みんなの終活窓口は3月4日にオープンしました。オープンの日程は実は語呂合わせです。みんな(3)の終活(4)で3月4日。
店舗のレイアウトなどはもっと早くから考えていたのですが、具体的にお店に入ってオープン準備を開始したのは2月に入ってのことでした。
私たちはまず、お店のコンセプトを話し合い、パンフレットや看板作成を開始しました。この時にオープニングスタッフで「どんなお店にしたいか」をブレストしたことがあります。
「終活」というネガティブなイメージを払しょくしたい。楽しく前向きな終活ができる場所にしたい。そんなスタッフの想いを語っていた時に、スタッフの一人がこう言いました。
『「楽しいセカンドライフを送りたい」「これから終活をしていきたい」と考えているみんながこの店に集い、ちょうど井戸の周りに人が集まる井戸端会議みたいな、そんな場所にしたい。』
『井戸!!いいですね!!井戸に見立てた丸いソファーを置きましょう。』
こうして、みんなの終活窓口には丸いソファーが置かれることになりました。
そして改めて井戸の語源を調べてみると、「井戸」の語源は「居処(いど)」。人が集まる場所という意味があると分かりました。確かに、水の湧く井戸には、昔から多くの人が集まって来たのだと思います。スタッフ全員、文句なしでその日から丸いソファを井戸と思って過ごして来ました。
スタッフの一人が井戸の話をした日から、私は個人的に好きな作家「村上春樹」を思い浮かべていました。村上春樹の小説には実はちょくちょく井戸が出てきます。
『ねじまき鳥クロニクル』では、主人公岡田了が井戸の底に降り、『騎士団長殺し』でも、免色渉が井戸の底に座る描写があります。ご本人も井戸に思い入れがあることをインタビューで語っています。
深い意識の底を表しているのか、井戸は精神的メタファーで地下で人の意識は繋がっていることを描写しているのか、解釈は人それぞれですが、井戸が何かしらの象徴として描写されていると思って間違いないのだと思います(その解釈も人それぞれですが)。
「『井戸』を掘って掘って掘っていくと、そこでまったくつながるはずのない壁を越えてつながる」(『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』新潮文庫)
難しいので書いている私もあまり理解はできていませんが、村上春樹にとっての「井戸」は、フロイトが本能的衝動(快楽を求め、不快を避ける原始的な欲動を持つ)という意味で用いた「イド(エス)」の暗示だとも指摘されていて、個人的に私はこの説が好きです。
そんなことを思ったので、スタッフの口から井戸の言葉が出たことをとても不思議に、そして意味のあることのように思っていました。
そしてソファーを井戸と思って3カ月が過ぎたある日。
コロナウィルスによる緊急事態宣言もようやく解除され、烏丸通に人が戻ってきた頃のことです。その日は天気が良かったので、何気なく道路の反対側までお弁当を買いに行き、そして初めて気づきました。
道を渡った向かい側。店のまさに対面に位置する場所に井戸があったのです。京都のビジネス街。ビルとビルの合間に、当たり前のように、井戸が佇んでいたのです。スタッフの誰もがこのことに気づかず、3カ月過ごしていました。
(みんなの終活窓口は、1年間限定で京都烏丸通にオープンしました。現在は、閉店しております。)
みんなの 終活窓口
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