未支給年金は相続財産ではない

前回、年金法では民法の規定する相続人の範囲及び順位決定の原則とは違う、独自の立場で未支給年金を請求できる遺族を定めているというお話をいたしました。難しい話に聞こえますが、いたって当然のことでもあるかもしれません。

よくドラマとかで、突然新たな相続人がでてきて遺産を請求するといったことがあります。これまで生活を共にしておらず全く音信不通だった人でも、相続権を主張できるのが民法での定めです。この点が年金法においては違った考え方となっています。

それでは、どんな遺族が未支給年金の支給を請求できるかというと、「受給権者が死亡した当時、その者と生計を同じくしていた者」が請求することができるのです。音信不通だった相続人が突然でてきても請求できるわけではないのです。

つまり、極端な例ですが、長年音信不通だった実子よりも、故人のお世話をしていた甥・姪が優先されることになるのです。この国民年金法第19条第1項・厚生年金保険法第37条第1項に定められていることは、遺族感情を考慮して規定されているように思います。故人の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とした立場から未支給年金の支給を一定の遺族(生計を同じくしていた遺族)に対して認めたものと解されています。

この条文は、「未支給年金は相続財産にあらず」という最高裁平成7年11月7日判決の根拠にもなっています。さらっとながしましたが、「未支給年金は相続財産ではない」のです。未支給年金請求権は、遺族が未支給年金を自己の固有の権利として請求するものなのです。

従って、相続の手続きをとるなかで、注意しなければならないことがあります。

・未支給年金を受給した相続人がいたとしても、その者は相続放棄をすることができる。

・相続放棄した相続人でも未支給年金を請求できる。

・相続税の課税対象にならない。

という点です。意外に思われるかも知れませんが、未支給年金は相続財産ではないんです。

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里井智彰

F&Partnersグループ(エフアンドパートナーズグループ)法人事業部 年金業務担当

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